JAPAN RAIL PASS1
某経済誌の記事で話題になった「JAPAN RAIL PASS」(以下JRP)について、趣味的な観点で触れたいと思います。ネタとしては初期のころから温めていたものですが、温め続けて10年が経ってしまいました。今後3回に分けて取り上げます。
JRPは来日した旅行者が日本国内を周遊するためにJRグループで発売するフリーパスで、JR全線(特急・新幹線を含む)とJRグループの路線バスが所定の日数分利用できます。普通車指定席用とグリーン車用の2種があります。現在使用されているJRPの効力は以下のような感じです。
- 「のぞみ」「みずほ」は自由席を含め一切利用不可
- JR西日本宮島フェリー・東京モノレールは利用可
- 三セク会社は以下の会社・区間で通過利用可
- 青い森鉄道…八戸~青森、八戸~野辺地、野辺地~青森
- あいの風とやま鉄道…高岡~富山
- IRいしかわ鉄道…金沢~津幡
- JRバスは路線バスのみ利用可。高速バスは利用不可。
この利用条件は外国人でなくてもJRをあまり利用しない人にとっては分かりづらいと思います。特に三セクの部分はこの5区間だけなぜOKで、JRと直通する特急列車が通っている伊勢鉄道や智頭急行がなぜダメなのかは不可解で、私にも線引きがよく分かりません。
価格は以下の通りです。小児用は半額です。日本の基準であれば小児用は小学校入学から中学入学前までですが、国によって学制が異なるため、小児用は引換証(後述)発行時点で6歳~11歳の児童に適用されます。なので12歳は大人扱いになります。
普通車用 グリーン車用
7日間用 29110円 38880円
14日間用 46390円 62950円
21日間用 59350円 81870円
この安さで日本全国のJR線が利用できてしまいます。はっきり言ってフルムーンやジパングなんて目じゃないです。1日あたりの金額で割ってみると、7日間用でも桁違いの安さということはわかるかと思います。くだらないツッコミが来る前に断っておきますが、外国にも同じように国外からの旅行者向けの格安パスがありますので、これについて異を唱えるつもりはありません。
利用資格は以下のいずれかに該当する人です。
- 「短期滞在」の在留資格で入国した外国人
- 外国の永住権を持った日本人
- 外国人と結婚し、外国に住む日本人
JRPは1のような一時的に来日する外国人旅行者を対象にしているので、外国人でも既に日本で就労・留学している人は利用対象外です。逆に日本人でも2・3の条件を満たす場合は利用できます。
利用を希望する人は出発前に自国のエージェントでJRPの引換券を現地通貨で購入しておく必要があります。日本入国後に指定されたJRの駅や旅行センターで引換券とパスポートなど利用資格を示す書類を呈示して、JRPを入手できます。日本に来てから直接JRPを購入することはできません。
引換券のフォルダと控です。利用者の氏名は伏せています。引換券は複写式になっていて、一枚目の引換券が回収され、発行済印が押された控が手元に残った形です。引換券は7日間の普通車用を2009年9月21日にイギリスのブリストルにある「InsideJapanTours」というエージェントで186ポンドで発売され、びゅうプラザ渋谷で10月10日に引き換えているのが分かります。
6年前のこの当時、日本円で28300円が186ポンドということは、1ポンドが約152円です。現在は1ポンド約183円です。29110円を183円で割ると、単純計算で約159ポンドになります。日本円では増税の影響で810円値上げされているのに、イギリスでは円安の影響で6年前より27ポンドも安く買えている計算になります。
これがJRPの現物です。折り畳んだ大きさはB6サイズです。と言ってもこれは一世代前のもので、最新版は次回以降の記事で紹介します。右側のパス部分はJR-Eの地紋にコピーガードが入っています。発行日は10月10日で使用開始日は10月14日になっていて、使用開始日は発行日から1ヶ月以内で指定できます。Country(国名)がJAPANで、外国姓だった氏名から判断するに上記3の条件で発売されたもののようです。
こちらは表面です。いかにも外国人が好みそうな浮世絵の「富嶽三十六景」をイメージした表紙と英語での注意書きが記載されています。スキャナの性能が悪くて分かりにくいですが、浮世絵の部分はホログラム加工されています。
自動改札には対応していないため、内側を係員に呈示して改札を通ります。また、指定券の交付を受ける際は窓口でJRPを呈示します。期間内で利用条件を満たせば区間や回数の制限はなく、何回でも指定を取り放題です。ただし、指定席券売機には対応していないため、指定券を取る際はみどりの窓口に並ぶ必要があります。
JRPを取り上げていた某経済誌の記事で問題視していたのは主に3点についてでした。
- JRP利用者はわざわざ混雑しているみどりの窓口に並ぶため、「乗るかどうかまだ不確実な列車を含めて、取れるだけ指定券を取る」傾向がある。
- 不要になった指定券は返却を求めるような旨がJRPのどこにも記載されていないため、使用しない指定券については戻されず放置されている。
- 放置される指定券は全体としては微々たる割合かもしれないが、国際空港連絡列車と言う特性上N’EX(おそらく成田空港行)については大量に出ていて、一般客が指定を取りたい時に取れないことがある。
私はN’EXの指定が取れないほど混んでいるのは近年見たことがありませんが、「プロ」を自称する筆者が実際にJRP利用者に聞き取った結果だそうなので、あながち見当違いではなさそうです。
今後は国の施策として外国人観光客を増やしていく方針ですので、比例してJRPの利用者は増えていくでしょう。実際にこういう使われ方をしているのであれば、パスの在り方を見直すべき時期に来ているのかもしれません。
【補足:2015/10/2】
IRいしかわ鉄道は普通列車の通過利用もできましたので、記事の一部を修正しています。指摘いただいた方ありがとうございました<m(__)m>
【補足2:2016/11/11】
今日のプレスリリースで来年3月から1年間の試行でパスポートの提示を条件に日本国内でも販売することと、来年3月末で在外日本人(上記条件の2・3)は利用資格から外すことが発表されました。来年4月以降は外国人しか利用できなくなります。
三セク5区間は整備新幹線の旧並行在来線ですね。
18きっぷ等他のJR全線対象のフリーきっぷと合わせたのでしょう。
ただ直通していても私鉄は不可、八戸のように完全に改札が分離されていても野辺地・青森方面は可、盛岡方面は不可というのを外国人旅行者に理解せよというのは現実的でないですね。
もっとも、JRP利用者はほとんどが新幹線利用でしょうし、三セク区間をJRPで通過という18きっぱーのような利用者はいないでしょう。
東海道新幹線のぞみ号利用不可は大きな問題ですが、もっとも指定券が取れませんので誤って乗ってしまうことは少ないと思えます。海外は特急自由席という考え方がまずありませんので。
それにしてもNEXがJRP利用者で埋まっているというのは初耳です。常に空気輸送くらいのイメージなのですが、繁忙期は見た目以上に混んでいるんでしょうか。
投稿情報: ttt | 2015年10 月 1日 (木曜日) 17時10分
韓国のKORAIL PASSも使わない指定券を大量に発行する利用者が多く発生したため、現在は時間が重複する指定券は発行できなくなりました。重複しない限り何回でも使えます。
時間重複を管理するためには原券番号ごとに指定券発行記録を個別管理する必要がありますが、日本のマルスではそこまでできそうにないですね。そもそも、料補や一部社のPOSでも指定券出せますし。
投稿情報: Misaki-A | 2015年10 月 1日 (木曜日) 23時54分
>tttさん
転換三セクなのは承知なんですが、なぜ直通特急のある会社は対象外で、JRP利用者にとってさほど優先度が高くなさそうな転換三セクが利用できるのかが疑問に思っている点です。
>Misaki-Aさん
個人的にはJRPポータルサイトのようなものを作って、パス利用者にID・パスワードを交付し、自分でネット予約して券売機で指定券交付というシステムだと、重複利用が防げて窓口に並ぶ手間も省けていいと思うんですが、誰がそういう仕組みを作るのかと常時ネット環境が確保きるかどうかが問題でしょうね。
投稿情報: 今出川 | 2015年10 月 2日 (金曜日) 20時48分
JRPの現物の上に東と書いてありますが、JRの他社地域で購入した場合は地紋も含め変わってくるのですかね
投稿情報: ショキショキ | 2015年10 月 4日 (日曜日) 08時43分
はい。そのようになっていました。
投稿情報: 今出川 | 2015年10 月 4日 (日曜日) 15時04分
いつも楽しく拝見しております。資格2で利用していますが、JR各社共通専用予約サイトはあったらいいなと思います。利用者は事前予約でき(現在は東のえきねっとのみ)、JRは少なくとも時刻がかぶる予約を防げます。実際にはパス発券前の予約になってしまう、会社間の調整が必要などの問題があり、事前予約できないのが安さの代償という考えもできるので現状維持でしょうか。
3セクの利用可否基準は孤立路線ではないでしょうか。大湊線、七尾線は3セク経由が必須、氷見線も城端線経由では利用しづらいです。
投稿情報: 越後屋 | 2015年10 月 5日 (月曜日) 13時54分
はじめまして。
JRグループにはサイバーステーションというインターネット予約サイトがあることはあるんですが、専用のプロバイダーに加入する必要がありほとんど浸透していません。
インターネット予約は各社がバラバラに造って各社ごとの独自商品を展開してしまっていますから、各社独自のものは残しつつ観光庁辺りが旗振り役になって私鉄有料特急も含めた国内の鉄道の予約ポータルサイトのようなものができるといいんですけどね。
投稿情報: 今出川 | 2015年10 月 5日 (月曜日) 20時14分