香椎線12駅無人化
香椎線の香椎・長者原を除く12の有人駅を3月のダイヤ改正で一斉に無人化し、遠隔管理に移行するというニュースが流れたのは今年に入ってからでした。その後、報道で香椎線12駅以外にも無人化される駅が小出しで判明し、最終的には32駅が無人化されました。無人化される駅の地元は新聞報道で初めて知って寝耳に水という反応が多く、中には強く反発したところもありました。
近年、沿線をごっそり無人化して遠隔管理に移行した路線として、一昨年10月のJR東海の武豊線が挙げられます。データで比較してみます。
駅数 営業キロ 移行前(有人:無人) 移行後(有人:遠隔:無人)
香椎線 16 25.4Km 14:2 2:14:0
武豊線 10 19.3Km 6:4 2:6:2
駅数には他路線との接続駅を含みます。香椎線も武豊線も駅数・営業キロとも似たような規模で、沿線が大都市のベッドタウンとして発展し、非電化ながらJRになってから大幅に利用客が増えた歴史も似ています。(武豊線は今年3月に電化されましたが)
武豊線では無人化した4駅と無人駅だった2駅に駅遠隔管理を行う「集中旅客サービス」を導入しました。新たに自動改札機を設置し、磁気対応のきっぷは自動改札機で回収するようにしました。運賃精算やICカードのチャージは案内センターとインターホンでやり取りします。
ただ、自動改札機に扉がないので抜けようと思えば抜けられますし、非磁気券は自動改札ではなく回収箱に投入なので、不正行為は防ぎきれません。JR東海も労組との話し合いの中で、利用客のモラルに期待するとしながらも、不正行為が増える可能性については認めています。
(香椎線・新原)
香椎線の列車は基本的にワンマン運転で、車掌は乗務していません。運転士が運賃収受を行わないので、有人時間帯はきっぷや運賃を駅で回収していました。しかし、駅から駅員が終日いなくなり、遠隔管理するのは精算やICカードのチャージぐらいで、乗客がきっぷや運賃を駅の回収箱に投入することになりました。また、ほとんどの駅では自動改札機もないかあっても機能を殺している(後述)ので、きっぷを買ったかどうかも分かりません。
無人化したのなら、駅員の代わりにきっぷや運賃を収受する代わりの仕組みを考えないといけないところですが、その観点がありません。とにかくコスト削減優先で、運転士や車掌が運賃収受をやることも、武豊線のように新たに自動改札を設置してできるだけ乗車券を確認することもしません。
こんな隙だらけのザルシステムだとキセルや無賃乗車といった不正行為し放題の上に、駅は無人で誰も見ていないのでまずバレません。不正行為を推奨しているかのようです。世の中悪事を働く人ばかりではありませんが、ザルシステムが利用客のモラルハザードを誘発するような気がしてなりません。
JR九州では終日遠隔対応できることを売りにして香椎線のこの方式を”Smart Support Station”などと称していますが、こんな隙だらけで「何がスマートだよ」と思います。
3月上旬に香椎線以外も含め無人化される駅を回ってきました。もう少し早い段階で情報があれば計画的に回れたんですが、なにぶん急だったので10駅程度しか回れませんでした。その中には「こんなところまで有人駅だったの??」と思わせる駅もありましたが、「ここホントに無人化するの?」と思う駅もいくつかありました。
(宇美駅)
香椎線の終点である宇美駅は後者のうちの一つです。福岡県宇美町の中心駅で、かつてこの辺り走っていた国鉄勝田線の駅もありました。駅舎は新しく、駅前のロータリーやバス・タクシー乗り場がきれいに整備されていて、列車の発着時にはソコソコの賑わいを見せていました。
また、無人化される駅では唯一マルス端末がありました。JR九州でマルス設置駅から一気に無人化された駅は記憶にありません。自動改札も稼働していたので、本当にこの駅を無人化してしまうのか不思議に感じたものでした。
無人化後は自動改札機をこの場に残したままきっぷの投入口を塞いで扉を開放し、ICカードをタッチするだけの改札機と化しています。自動改札機の回転部分を使用しないことによってメンテナンスコストの削減を狙ったのかもしれません。運賃やきっぷは改札機脇に設置された箱に投入します。自動改札機の格好をしていますが、機能的にはICカード用の簡易読取機と同じです。ここまで来るともう滑稽にすら思えます。
JR東日本もコスト削減のため、全社的に無人化やみどりの窓口閉鎖を進めています。今回のJR九州の施策はまるでそれを手本に独自でアレンジして劣化コピーしているかのようです。経営努力やある程度の合理化は否定しませんが…。
先日、国会で改正JR会社法が成立し、JR九州が政府の監視対象となるJR会社法の対象から外れ、法的に上場への支障がなくなりました。新聞報道によると来年秋の上場を目指して準備を進めていくんだそうです。
悲願の上場に向け、慢性的に赤字である鉄道事業の収益を上げ、企業価値を高めていく中での今回の施策だと思っていますが、こんな極端なことをしてまでJR九州が上場して喜ぶのは一体誰なんだろうか?とも思ってしまいます。上場に向けていろいろなサービスが切り捨てられている現状では利用客は誰もうれしくないはずです。JR九州の経営陣は上場や「ななつ星」で浮かれる前に、誰に向いて仕事をしているのかよく考えて欲しいところです。
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